『シューレス・ジョー』W.P.キンセラ著 永井 淳訳
たぶん20年以上前に読んだ本だ。
読後にサイダーみたいに爽やかな後口が広がる良質なファンタジー。
読み直してみて、詩的な表現の美しさを随所に感じた。
同じ本を読んでも、歳月を経て読むこちらの状況が様変わりすれば、その印象は変わるものだ。
「あの言葉がどんなにぼくの心を揺り動かしたか、あなたにはわからないでしょう『一九六四年にはポロ・グラウンズそのものが取りこわされてしまった』というあの一行がぼくの心をとらえたんです。あの言葉は印刷されたページから飛びたち、空中に浮かび、灰色の小鳥の姿となってぼくの肩に止まりました。ぼくは手をのばしてそれをつかまえ、脈うつ小さな体を掌に入れて胸に強く押しつけたんです。するとそれは霧のように消えてしまいました。シャツの前をはだけてよく見てもらえば、小鳥の銀色の輪廓がかすかにぼくの肌に残っているのが見えるはずですよ」